第5回徳島IoT活用研究会を開催

2018年6月28日(木)、阿波銀行本店におきまして、徳島IoT活用研究会に加盟する県内企業、徳島県、徳島大学、阿波銀行の会員やオブザーバーを合わせ45名の出席のもと、「第5回徳島IoT活用研究会」を開催しました。
今回は、愛知県で自動車部品製造およびIoTシステム開発に携わられています旭鉄工㈱・i Smart Technologies㈱代表取締役社長木村哲也氏のご講演であり、演題は「1時間で始めるスマートファクトリー化」です。講演の概要を以下に記します。

講演概要

1.古い機械設備に対応し、導入コストを抑えるために「自作」

トヨタ自動車勤務を経て2013年に旭鉄工に入社したが、「トヨタ生産方式」の指導に携わってきた経験もあって、同社のカイゼンを早く進めたいと考え、IoTの導入を決めた。
さまざまな展示会に足を運んだが、大掛かりで高価なものばかりであった。また、同社には20年以上稼働させ続けている古い機械設備が半数以上あり、シーケンサーやPLCが非装備などIT化されていないため、導入が難しいといった壁にも当たった。そこで、システム構築は「自作」で取り組むこととし、“アキバ”で光センサー、磁気センサー、リードスイッチ、シグナルタワーランプを「大人買い」し、これらを自社の古い機械に取り付け、稼働状況の「見える化」から始めた。
生産個数は、「製造ラインが動いた時間」を「サイクルタイム(製品1個の生産にかかる時間)」を割ったものである。したがって、「ラインの停止時間を減らす」と「サイクルタイムを短縮する」ことができれば、生産個数を増やすことができる。そこで、このような時間を計測せよと口で言うのは簡単だが、人手をかけて手作業で行うことは、常時できる訳ではない、正確なデータを測ることは難しいなどの理由から、まず長続きしない。しかし、センサーを用いて自動で計測する態勢であれば、複数の製造ラインで同時に機械稼働中はずっと計測可能であり、コンマ単位で正確に把握することができる。カイゼンは現状把握、検討、改善の3つから構成されるが、IoTを用いれば最初の現状把握にかかる時間を大幅に削減することができ、生産性向上のスピードが上がる。

 

2.アナログな考え、動き方による風土づくりも必要

IoT=IT+OT(運用)と考えており、OTの部分ではアナログな活動も重要である。IoTでの見える化から検討、改善に移す段階においては、経営者や部門責任者が毎日のように現場(機械設備の前など)に直接出向いて進めるべきである。その方が、改善策を見つけ、実行に移しやすい。
サイクルタイムなどの削減をめざす場合は、いきなり1秒縮めるというよりも、0.1秒ずつ縮めていくという方がよい。カイゼンの結果が現れやすく、ひいては現場のモチベーションを高める結果となる。また、サイクルタイムについては、ヒストグラムですぐわかるようにしてあり、バラツキが減るなどの効果が出た場合は、このペーパー上で評価することに加え、担当者を現場でも褒めるようにしている。本人にとってうれしいことはもちろんだが、周りの社員にとっても大いなる刺激になる。「どうして社長から褒められたのか、聞いてみよう」となり、「自分の担当箇所でもやってみよう」という動機付けにつながっていくことが多く、カイゼン活動を社内全体に浸透させやすくなる。
あと、目標は高く設定することが重要である。手が届きやすそうな低い目標では、既存の発想の延長になりがちで、結局できなかった、というのが往々にしてある。根拠はないが2割アップの目標を設定したところ、当初は苦労したが、現在ではこれを大きく上回る2倍の成果を出した、ということも経験している。しかし、高い目標を掲げたからには、丸投げはダメであり、経営者、責任者は現場に通い、どんどんアイデアを出すことが必要である。

 

3.こうしたカイゼンの結果、どうなったか

同社の西尾工場フックラインでは、1年間で出来高を69%アップさせることができた。この結果、以前検討していたライン増設が不要となり、1.4億円削減できた。また、このラインでは製造個数を確保するために休日出勤が定例化していたが、これがなくなるとともに平日の残業もゼロになった。本社のバルブガイドラインでは15%アップしたことにより、ライン増設が不要となって54百万円を浮かせたとともに、建設予定であった300㎡の敷地も不要となった。
旭鉄工の80ラインでは平均34%アップ、うち21ラインで50%アップを達成している。ラインへの投資は4億円以上、労務費は年間で1億円以上削減できた。主要先2社に対する納入不良については、ピークの2015年と比べると75%以上削減できた。
このようにうまくいった理由は、①明確な「目的」を持ってIoTを導入したこと、②「最低限のデータ」収集を心掛けたこと、③「運用」に力を入れたこと、である。IoTはあくまでもカイゼンのための手段であり、経営資源の余裕が少ない中小企業においてはなおさらである。また、「完全・完璧を求め過ぎない」、「早く意思決定し、早く動く」ということも心掛けており、社員にも浸透してきている。

 

4.他社への展開

こうしたIoTシステムを他の企業でも活用してもらおうと、初期費用10万円・月間39,800円(5ラインの場合)の安価で提供しており、現在約100社に導入している。そのうちの約80社が中小企業であり、機械・金属系の製造業だけではなく、他の製造業やサービス業なども顧客となっている。全部で約600ラインからのデータを取得しており、これにより顧客に役立つアドバイス、コンサルティングができるようになってきた。5日分のデータを分析し、そのラインの診断レポートを作成するサービスも提供している。ラインの停止時間が予想外に長く、驚かれる経営者も多い。今後は、AIを活用した上でのデータ解析などを行い、顧客サービスの高度化を目指している。
本年5月には、経済産業省の橋渡しにより、タイ政府と相互協力の覚書を交わしており、現在8社と実証実験を行っている。国内、海外ともに、サービスの展開を拡大していきたい。

本講演の途中では、旭鉄工㈱で実際に運用されている事例として、「AWS IoT ボタン」による関係者の呼び出し、AIスピーカー「Alexa」を用いて稼動・停止の指示、稼働状況の把握、社員への伝達を行う映像が紹介されました(You Tubeで公開されています)。また、
ホワイトボードの代わりに「Alexa」を用いて、社員の出退管理を行うデモンストレーションも紹介されました。

 

講演の終了後、活発な質疑応答が行われました。また、徳島県広域行政課イノベーション創造担当室長の久原孝子氏から、今後における徳島県のIoTに関する取り組みについて、民間企業の参加も得た上でのコンソーシアムを立ち上げるなど、具体的な活動を展開していくことが述べられました。